イエロークリスマスの小さな奇跡①

 

イエロークリスマスの小さな奇跡
~明良編~

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
これは3話構成の物語
(フィクションです。)

主要の登場人物は2人
男性:明良(あきら)
女性:美月(みづき)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「だからクリスマスなんて!
 大っ嫌いなんだ!」

明良は大声を張り上げた。

 

それは、
クリスマスが目前に迫った
12月22日のことだった。

 

明良には「美月」という3年半
付き合った彼女がいるのだが

気持ちのすれ違いから
言い合いが始まり気がつけば
喧嘩にまで発展していた。

 

喧嘩するはずじゃなかったのに
喧嘩しようとしたわけじゃないのに
気がつけば言葉が止まらなかった。

 

 

「ごめん、ちょっと実家に帰る。」

喧嘩がおさまると間髪入れず
美月は、そうつぶやいた。

 

クリスマスが目前に迫る
12月22日のことだった。

 

 

明良は目の前から
美月が居なくなり
広くなった部屋を
呆然と見渡していた。

いつも聞こえてくる声がなく
いつも感じる存在が感じず
いつもの空気感が無くなっていた。

 

付き合い始めてから
半年で一緒に住みだして
3年という月日を共に
過ごしてきた。

気がつけば横に美月が居て
気がつけばいつも一緒だった。

 

それが、普通だったし
それが、当たり前だったし
それが、ずっと続くと思ってた。

でも今、目の前にあるのは
そのすべてが崩れた状況だった。

 

 

いつも気軽に話せる彼女
いつも気を遣わず同じ時間を
過ごしている彼女
いつも隣に居る彼女

 

それなのに、こんな時には
何を話し、どんな言葉をかけ
どう接すればいいのか?

明良には分からなかった。

 

 

電話をかけようとしたけれど
通話ボタンが押せず
LINEを打とうとしたけれど
打つ言葉が出てこず
実家に行こうと思ったけれど
足が動こうとしなかった。

 

寝付けない長い夜を過ごした。

◇ ◆ ◇

 

 

次の日、気持ちを落ち着けるために
数日、会社を休むことにした。

有休も全く消化していなかったし
仕事も繁忙期は終わっていたので
簡単に了承された。

 

こんなに簡単に了承されるとは
思いもしなかったので
少しあっけにとられていた。

「心を癒しに行こうかな…。」
と、一人旅を決意した。

 

 

すぐに旅先と旅館を決めて
鞄に着替えを詰め込んだ。

 

「非日常を味わうか。
たまには一人の時間を満喫しても
罰は当たらないだろう。それに…。」

頭の中はこれからの旅行よりも
昨日のことで頭がいっぱいだった。

 

 

「あ!電車の時間が!」

そう言うと、明良は現実に戻り
慌てて家を飛び出した。

 

 

行先は東北の温泉宿だった。

 

とくに理由もなく決めたのだが
「非日常」というワードが
頭をよぎっていたので
その直感に従った。

 

都会住みの人間にとって
「雪の世界」を味わうのは
非日常だと思ったのだった。

 

 

久しぶりの新幹線に
心浮き立つはずだったが
隣の席には誰も居なかった。

そうこうしている間に
外の景色は見慣れたビル群から
雪景色に変わろうとしていた。

 

 

「雪といえばクリスマスか。」

 

 

明良にとってのクリスマスは
良い思い出がなかった。

子供のころは家でクリスマスを
特別に祝うという習慣がなく
クリスマスプレゼントも
用意されていなかった。

 

周りの友達がクリスマスには
家でチキンを食べて
クリスマスケーキも用意して、
プレゼントをもらっていると知り
母親に駄々をこねたことがあったが

「よそはよそ!うちはうち!
クリスマスは外国のお祝い事!
ここは日本でしょ!」
と一喝されてしまった。

 

 

グスンとすねていた明良を
母は少し可哀そうだと思ったのか
クリスマスには必ずある食べ物が
並ぶようになったのだった。

 

「はい!今日はクリスマスね!
外国はチキンを食べるみたいだけど
日本風にしてみたわ(笑)」
と言われて食卓に出てきたのは

 

 

 

【玉子焼き】だった。

 

 

 

「お母さん、どうして玉子焼き?」
と尋ねると、

母はクスクス笑いながら
「鶏と言えば!た・ま・ご・よ!」

 

明良は母親のセンスに絶望したが
クリスマスに出てくる玉子焼きは
いつもの玉子焼きよりも
格段に美味しかったのだった。

 

 

母親が作る玉子焼きは
塩っ辛くて美味しいと
感じるときが少なかった。

お弁当に入っていても
あまり喜べないおかずだった。

 

だが、

クリスマスの玉子焼きだけは
なぜか、美味しかった。

 

 

その玉子焼きを食べると
「あぁ、クリスマスかぁ…。」
という気分になっていたのだった。

 

そういえば、
大人になってから知ったのだが
クリスマスに出てくる玉子焼きは
『出し巻き』と言われるものだった。

 

クリスマスを味わえることが
唯一、玉子焼きしかなかったので
明良はクリスマスが大嫌いだった。

 

 

雪を見たことで子供の頃の
クリスマスの思い出が
頭の中を占領していた。

 

「だからクリスマスなんて!
 大っ嫌いなんだ!」


◇ ◆ ◇

 

目的地に到着しバスに乗り換え
今日、宿泊する旅館に辿り着いた。

旅の目的は特になかった。
観光をする気もなかった。
出かける気もなかった。

 

ただ、1人でのんびり
部屋で過ごそうという
漠然とした計画しかなかった。

 

 

『何もしない日をつくる』

 

 

非日常の雪景色を見ながら
何もしない日を自分のために
用意したのだった。

頭の中をクリアーにするために。

 

外の雪景色は贅沢だったが
部屋にずっと居るのも暇すぎて
大浴場に行くことにした。

 

今日は平日ということもあり
お客さんの数は少なく
露天風呂は貸し切り状態で
幸せを感じていたが

その幸せはあまり
長くは続かなかった。

 

 

「昔は、あんなに仲良かったのに
 いつから、すれ違ったんだろう?」

 

「俺、いつから、美月のことを
 ちゃんと見なくなったんだろう?」

 

「2人でいることがなんだか
 もう、当たり前になりすぎて
 気にかけなくなってたのかな…。」

 

自分との対話が始まり
悶々とした時間に変化した。

答えは出なかったが2人の間で 
気がついたことがあった。

 

「話す時間が最初の頃と比べて
 だんだん減ってたんだな…。」

 

「美月の気持ちや考えが
 最近、分からなくなってた。」

 

「そういや2人してバカみたいに
 笑う時間が無くなったな。」

 

対話が思いのほか長くなり

贅沢な時間を満喫できず
のぼせてきたので
部屋に戻ることにした。

 

 

晩御飯を食べながら
「めちゃくちゃ美味しいな!」
と言える人が隣に居ない。

 

それが、

これほど寂しいなんて
思いもしなかった。

 

 

昨日みたいな大きな喧嘩は

今までで初めてだったし
美月が家を出ていくなんて

もちろん、
初めての経験だった。

 

だから、どうすればいいか。
どういう言葉を伝えればいいか。

まだ、何も分からなかった。

 

 

「自分から謝ればいいんだ!
 でも、何を謝れば…。」

 

 

電話をかけようとしたけれど
通話ボタンが押せず
LINEを打とうとしたけれど
打つ言葉が出てこず
実家に行こうと思ったけれど
足が動こうとしなかった。

 

明良は再び昨日と同じような
寝付けない長い夜を過ごした。

 

 

イエロークリスマスの小さな奇跡
パート②へ、つづく

 イエロークリスマスの小さな奇跡②

 

 

 

 

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